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社会的・道義的責任は法的責任か?
平成16年12月24日、最高裁は高裁の判断を覆し、社会通念上回収不能の債権を貸倒処理することを認めた判決の言い渡しをしました。この判決はどのような意味があるのでしょう。

(事件の概要)
 納税者である某銀行(3月末決算)の貸出金の3月29日付債権放棄に係る貸倒処理について税務署の課税処分が行われ訴訟に至りました。貸出先は住専と呼ばれる住宅金融専門会社で、バブル崩壊の煽りを受け巨額の不良債権が当時社会問題となり住専処理法の成立する前後の時期の事件です。一審の東京地裁では社会通念上回収不能であり、金融機関の主張を認める判決をしました。しかし東京高裁は次のような理由で課税処分を認める判決を行いました。
(1) 債務者である某住専には借入総額の40%にあたる資産があり、債権が全額回収不能であるとはいえない。
(2) 債権者である某住専の母体行としての社会的、道義的責任上その債権を行使し難いからといって、これを貸倒の理由には出来ない。
 

(高裁の判決要旨より) 

本件債権が貸倒れであるとして損金算入することが認められるためには、債務者の信用状態からその全額の回収が不能となって、資産性が全部失われることが必要であるところ、平成8年3月末当時においては、■■■■■■■■■■には借入金総額の約40パーセントに当たる1兆円の資産が残されていたものであり、■■■■■■■■■■の母体行である被控訴人の本件債権が弁済順序において法的に最劣後のものとなっていたということはできないし、担保権についても無条件でこれを放棄したものとは解されないから、上記の時点においては、本件債権の全額が回収不能であったとはいえない。また、被控訴人には、■■■■■■■■■■の母体行としての社会的、道義的責任上、本件債権を行使し難いような事情があったしても、その故をもって本件債権が貸倒れに当たるとして、本件債権相当額を本件事業年度の損金に算入することはできない。


高裁のこの判断は、次の法人税基本通達に沿ったもののように思えます。
 

(法人税基本通達9−6−2) 

法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。


税務調査の現場ではこの通達が硬直的に適用され、債務者側に処分可能な資産が存する場合には貸倒損失の損金処理を否認されるケースが予想されます。本件の東京高裁の場合にはさらにこの結論を補強する為に、「平成8年12月末までに住専の営業の譲渡及び解散の登記が行われないこと」を解除条件に債権の全額放棄をしている点に目をつけ、債務は不確定であり、これを当該決算期の損失とすることは一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合しない旨の理由を述べています。
 

(高裁の判決要旨より)

この場合に本件債権の放棄による損失を本件債権放棄のされたときの属する事業年度の損金に算入すべきものとすることは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合しないし、本件におけるような流動的な事実関係の下において、このような解除条件付きの債権放棄がされた場合には、その意思表示のときの属する事業年度ではなく、解除条件の条件不成就が確定したときの属する事業年度における損金としてこれを計上すべきものであることからも、本件債権の放棄による損失を本件事業年度の損金に算入することはできない。


(最高裁の判断)
 最高裁は上記の高裁判決を破棄し銀行側勝訴の判断を下しました。その理由は以下のようなものです。
(1) 金銭債権の全額が回収不能であるか否かの判断は社会通念に従って総合的に判断されるべきものである。
(2) 銀行側は本件住専の経営に深くかかわり、他の債権者から信義則上の責任を追及されかねない立場にあったが、貸出金全額の放棄を責任の限度とし、それ以上の責任を回避しようとしたことが認められる。
(3) 解除条件は住専処理法が不成立である場合を念頭に置いたものであるが、仮に不成立であっても、改めて他の債権者に平等負担を求めることは社会通念上想定しがたいから、解除条件付であることが結果を左右しない。
などの理由で、平成8年3月末までに本件の貸出金の全額回収不能が客観的に明らかであったと結論付けています。

 

(最高裁の判決文より)

(1) 法人の各事業年度の所得の金額の計算において、金銭債権の貸倒損失を 法人税法22条3項3号 にいう「当該事業年度の損失の額」として当該事業年度の損金の額に算入するためには、当該金銭債権の全額が回収不能であることを要すると解される。そして、その全額が回収不能であることは客観的に明らかでなければならないが、そのことは、債務者の資産状況、支払能力等の債務者側の事情のみならず、債権回収に必要な労力、債権額と取立費用との比較衡量、債権回収を強行することによって生ずる他の債権者とのあつれきなどによる経営的損失等といった債権者側の事情、経済的環境等も踏まえ、社会通念に従って総合的に判断されるべきものである。

(2) これを本件債権についてみると、前記事実関係によれば、次のとおりである。

ア  母体5社は、平成7年9月にA社を整理する方針を確認したところ、その後の農協系統金融機関との協議において、農協系統金融機関が、その元本損失部分についても母体行が責任を持つ完全母体行責任による処理を求めたのに対し、B銀は、その貸出金全額の放棄を限度とする修正母体行責任を主張し、債権額に応じた損失の平等負担を主張することはなかった。
 

イ  その背景として、B銀は、A社の設立に関与し、独禁法で許容される上限まで株式を保有し、役員及び職員を派遣し、多額の融資を行うなどして、その経営に深くかかわっていたという事情があった。そして、同4年に策定された第1次再建計画によってはA社の経営再建ができなくなり、同5年に本件新事業計画が策定されるに至ったが、農協系統金融機関が融資残高の維持及び金利の減免を内容とする同計画に応じたのは、母体行が責任を持って再建計画に対応することが明確にされたからであった。そうすると、B銀は、本件新事業計画を達成することができなかったことにつき、農協系統金融機関から信義則上の責任を追及されかねない立場にあったということができる。

ウ  本件新事業計画は、A社の再建を前提としたものであって、その破綻後の整理を前提としたものではないものの、A社の余裕資金による返済順序の第2順位が母体ニューマネー、第4順位が農協系統金融機関の債権とされ、母体行の従前からの債権がそれらに劣後するという内容であったところ、B銀は、A社の整理が避け難い情勢になった後においても、A社から母体ニューマネーを回収していた。したがって、農協系統金融機関が完全母体行責任を主張することには無理からぬ面があり、B銀も、上記のような経緯を考慮して、修正母体行責任が限度であると主張して、本件債権の放棄以上の責任を回避しようとしていたものということができる。

エ  母体5社は、本件閣議決定及び本件閣議了解で示された住専処理計画に沿ってA社の処理計画を策定し、同計画において、B銀は、本件債権を全額放棄すること、すなわち、本件債権を非母体金融機関の債権に劣後する扱いとすることを公にしたということができる。前記のとおり、B銀においてせいぜい修正母体行責任しか主張することができない情勢にあったことをも考慮すると、仮に住専処理法及び住専処理に係る公的資金を盛り込んだ予算が成立しなかった場合に、B銀が、社会的批判や機関投資家としてB銀の金融債を引き受ける立場にある農協系統金融機関の反発に伴う経営的損失を覚悟してまで、非母体金融機関に対し、改めて債権額に応じた損失の平等負担を主張することができたとは、社会通念上想定し難い。

オ  前記のA社の処理計画において、A社の正常資産及び不良資産のうち回収が見込まれるものの合計額は、非母体金融機関の債権合計1兆9,197億円を下回る1兆2,103億円とされたが、この回収見込額の評価は、本件閣議決定及び本件閣議了解で示された公的資金の導入を前提とする住専処理計画を踏まえたものであるから、破産法等に基づく処理を余儀なくされた場合には、当時の不動産市況等からすると、A社の資産からの回収見込額が上記金額を下回ることはあっても、これを超えることは考え難い。

(3) 以上によれば、B銀が本件債権について非母体金融機関に対して債権額に応じた損失の平等負担を主張することは、それが前記債権譲渡担保契約に係る被担保債権に含まれているかどうかを問わず、平成8年3月末までの間に社会通念上不可能となっており、当時のA社の資産等の状況からすると、本件債権の全額が回収不能であることは客観的に明らかとなっていたというべきである。そして、このことは、本件債権の放棄が解除条件付きでされたことによって左右されるものではない。

 


(コメント)
この最高裁判決は法に基づいた責任以外に、社会的・道義的責任を認めたわけでも、「法人税基本通達9−6−2」を否定したわけでもありません。最高裁判決は債務者に処分可能な財産があっても全額回収不能であることが客観的に明らかであるといっています。それは高裁判決がいう「社会的・道義的責任」に基づいて損失の平等負担を放棄しているからです。最高裁判決ではこの責任を社会通念に従って総合的に判断された責任とし、また「信義則上の責任」との言葉も使用して法的な責任まで高めています。


2005.08.01
 
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