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子会社への債権を貸倒れ処理した場合の取り扱いについて |
2008年10月12日 23時50分 |
債権放棄による貸倒損失は、貸付けの内容、債務者の資産状況等事実認定によって結論が大きく異なります。以下の解説は「近畿税理士界」532号に掲載された文章からの抜粋です。
(1)回収不能の金銭債権の貸倒れについて
法人の貸倒損失の処理について、法人税法には別段の定めがないことから、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に基づいて計算されます(法法22条4項)。「中小企業の会計に関する指針」17では、貸倒損失について、「法的に債権が消滅した場合の他、回収不能な債権がある場合は、その金額を貸倒損失として計上し、債権金額から控除しなければならない」とし、「『回収不能な債権がある場合』とは、債務者の財政状態及び支払能力から見て債権の全額が回収できないことが明らかである場合をいう」としています。尚、実務の取り扱いとして「当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理することは出来ないものとする」(法基通9−6−2)とされています。従って、貸付金の担保となる資産がなく、解散を目的としたような債権放棄については、その損失は税務上も損金として処理されます。
また、その損失の計上時期は債務確定主義によります(法法22条3項)。例えば、平成11年12月22日裁決(TAINS F0-2-169)のケースは、和解金を限度として弁済を受け、これを超える額は債務免除する旨の協議決定をしていたのですが、本件和解金が完済されたときにはじめて効力が発生する停止条件付きの債務免除であり、返済が継続している間は債務が確定せず、損金算入することが出来ないとされました。
(2)寄附金該当性について
寄附金の損金不算入制度の趣旨について裁判例(福井地裁平成13年1月17日判決・TAINS Z250-8815)は次のように説明しています。「寄附金もまた法人の純資産の減少ではあるが、法人が支出した寄附金の金額が無条件で損金となるものとすると、その寄附金に対応する分だけ当該法人の納付すべき法人税額が減少し、その寄附金は国において負担したのと同様な結果になることから、これを排除することにあると解される」。ところで債権放棄に関する寄附金該当性について「損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその損失負担等をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められるとき」には寄附金に該当しない旨の通達(法基通9−4−1)が公開されています。また、その子会社等の営業を継続する場合の支援についても、「その無利息貸付け等が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものである等その無利息貸付け等をしたことについて相当な理由があると認められるとき」は寄附金に該当しないとしています(法基通9−4−2)。尚、この場合の合理的再建計画について「支援額の合理性、支援者による再建管理の有無、支援者の範囲の相当性及び支援割合の合理性等について、個々の事例に応じ、総合的に判断するのであるが、例えば、利害の対立する複数の支援者の合意により策定されたものと認められる再建計画は、原則として、合理的なものと取り扱う」としています。
(3)貸付金としての事実認定について
ところで、その貸付金が事業上の貸付金であるのか、という点をまず確認しないといけないでしょう。例えば息子が代表取締役をしている別会社が倒産したためにした保証債務の履行に伴う損失について、「これら一連の行為は、請求人が同族会社であったこと及び甲と乙が親子関係にあったためなされたものと判断されるから」、その保証債務履行に伴う損失は貸倒損失ではなく寄附金であるとした裁決例(昭和62年3月30日裁決・TAINS J33-3-03)があります。また、別の裁決(平成9年6月2日裁決・裁決事例集No.53 293頁)のケースでは100%子会社が税務調査により多額の租税債務を負ったため、営業を新設会社に譲渡し租税債務だけを残してこの子会社を解散。親会社がその租税債務を負担したうえで、これを債権放棄したのですが、もちろんこのケースでは貸付けの当初から回収の意思がないと推認されることから寄附金と認定されています。これらのケースのように、単に回収不能が明らかであっても、その貸付けに経済的な合理性がないと、その貸倒れによる損失が寄附金と認定される場合がありますので注意が必要です。
(4)回収可能性の判断について
次に注意が必要なのは、回収可能性の事実認定です。「回収不能でない債権を放棄した場合には、その放棄が債権者の如何なる事情に基づくかによらず、債務者にとっては経済的利益を無償で受けたことになるのであり、かかる点からすれば、債権者の動機の如何を問わず、回収不能でない債権を放棄した場合には、寄附金に該当すると解するのが相当である」(宇都宮地裁・平成15年5月29日判決・TAINS Z253-9355)と考えられます。そこで裁判例等をもとに、具体的なケースを紹介します。
@事業継続のケース
宇都宮地裁(前掲判決)のケースでは、「債務免除を受けた法人が、その時点で、事務所を有し従業員を雇用して所期の事業を継続していること、他の法人とその連帯保証人に対し損害賠償請求訴訟を提起し係争中であったこと等を理由に回収不能が明らかであったとはいえない」と結論しています。
A未完成建物にも担保価値があるとしたケース
平成18年11月27日裁決(TAINS J72-3-23)のケースでは、納税者は債務者が所有する建物は三世帯住宅という特殊な構造のため売却が困難であり、担保価値がなく回収不能であるとの主張をしたのですが、審判所は、「本件建物は約70%程度完成し、既に建物として成立しており、何らの担保も設定されておらず、本件建物自体に資産価値がないことが最終的に明らかになっていない」、として寄附金を認定しています。
B債務者が資産を有する場合で、貸倒れ処理を認めたケース
上記Aとの関連で、債務者には借入総額の40%の資産があるにもかかわらず、債権放棄により貸付金の貸倒れ処理を認めたケースがあります。このケースは「日本興業銀行事件」として有名な事件であり、一審の東京地裁(平成13年3月2日判決・TAINS Z250-8851)では納税者勝訴、二審の東京高裁(平成14年3月14日判決・TAINS Z252-9086)では納税者逆転敗訴、そして最高裁(平成16年12月24日判決・TAINS Z888-0921)で再逆転納税者が勝訴したケースです。最高裁は、「金銭債権の全額が回収不能であるか否かの判断は社会通念に従って総合的に判断させるべきであり、母体行としての社会的、道義的な責任は信義則上の責任であり、貸出金全額の放棄を責任の限度とし、それ以上の責任を回避しようとしたことが認められる」として、貸倒れ処理を認めています。
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