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法人課税の際の公平原則の適用 |
2003年11月11日 00時00分 |
法人には憲法14条(法の下の平等)の適用があるか
まず、法人には憲法14条の適用があるのかという点から考えてみましょう。芦部教授は「人権は、個人の権利であるから、その主体は、本来人間でなければならない。しかし、経済社会の発展にともない、法人その他の団体の活動の重要性が増大し、法人もまた人権の享有主体であると解されるようになった・・・わが国でも、人権規定が、性質上可能なかぎり法人にも適用されることは、通説・判例の認めるところである」とし、その根拠を「法人の活動が自然人を通じて行われ、その効果は究極的に自然人に帰属することに加えて、法人が現代社会において一個の社会的実体としての重要な活動を行っていることを考え合わせると、法人に対しても一定の人権の保障が及ぶと解するのが妥当であろう」と説明されています※1。この説明には二通りの根拠が併記されていますが、先の説明の中にある「性質上可能な限り」とはどのような意味であるかを考えるうえで結論に影響を及ぼします。橋本基弘教授は前者の根拠を「個人利益還元説」後者を「団体固有利益説」と名づけられています※2。そして今日通説的見解であるとされる団体固有利益説の誤謬を指摘されています※3。すなわち橋本教授は団体の人権享有主体性には「個人の人格的自律や尊厳といった原則的な正当化ではなく、「必要性」という功利的な正当化が採用されている」と述べられており※4、私もこの説を支持します。つまり法人にも憲法14条の「法の下の平等」は適用されるのですが、しかしそれは「個人の尊厳」を根拠にする個人にかかる「法の下の平等」とは性質が異なり、功利的な必要性からの「法の下の平等」なのです。
法人課税のあり方
法人に対して憲法上要請される功利的な必要性からの「法の下の平等」とはどのようなものでしょうか。平等の種類については経済学者の石川経夫教授が『所得と富』という著書にまとめられています。石川教授は分配の「公正」の定義につき、大きく「手続きの公正に着目する考え方」と「結果の公正に着目する考え方」の二つの接近方法を示されています※5。そして前者の基準が「機会の平等」です。なお、石川教授はこのような古典的な平等の基準が解決しえない問題について論を進められますが、ここでがはその内容に踏み込みません。石川教授のこの議論は個人の尊厳に基づく個人の平等を論じているからです。法人には衣食住や人種や教育などの問題が無いのであり、資本主義社会が経済活動を行うことを目的として商法その他の法令により設立が認められた法人は、その経済活動について平等に機会が与えられさえすればよいのです。そしてその法人の経済活動が個人に還元されたときにはじめて結果の平等を始めとする平等が論じられるのです。憲法14条の「法の下の平等」は法人にも自然人(個人)にも適用されますが、法人の存在は個人が存在することと本質的に異なるので、法人にとっての平等と個人にとっての平等もまた本質的に異なります。このように考えると法人税法上の「税負担の公平」とは資本主義経済のルールに従って平等に競争する機会が与えられたのなら、税負担を分配する上でその結果には介入してはならないことだと言えるのではないでしょうか。
※1 芦部信喜『憲法 新版補訂版』(岩波書店1999年)87頁。
※2 橋本基弘「非政治団体の政治的自由と構成員の思想・信条の自由(下)」高知女子大学紀要 人文・社会科学編 第43巻(高知女子大学編1995年)12頁。
※3 橋本基弘・前掲注2論文・13頁。
※4 橋本基弘・前掲注2論文・14頁。
※5 石川経夫『所得と富』(岩波書店1991年)第二章27頁以下 結果の平等には「貢献に応じた分配」、「必要に応じた分配」および「努力に応じた分配」の基準が挙げられ、機会の平等には「形式的な機会均等」と「公正な機会均等」との種類を挙げられる。そしてこのような古典的な平等概念より、さらに高次な概念の必要性を主張される。
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