年間110万円以下で贈与する場合の注意点

 孫の通帳を作って年間110万円(暦年課税贈与の非課税限度額)以内の資金を動かすという場合を考えてみましょう。

 贈与は契約ですので「あげる」という意思と「もらう」という意思の合致が原則です(民法549条)。例えば子供名義の預金の存在を子供自身が知らず、子供名義の贈与税の申告を親が勝手にして、親がその贈与税を支払っている場合には、その贈与の事実は初めから無いのであって、贈与税の申告が虚偽の申告となるのが原則的な取り扱いと考えられます。

 ただし、その子供が意思能力の無い幼児である場合には、親権者等がその子供の行為を代理することにより、その契約を有効に成立させることが出来ます(民法824条)。さらに、未成年の子供であっても、意思能力が認められる程度に成長した子供の場合には、単に権利を得る法律行為については子供単独でも契約が成立します(民法5条)。

 例えば、祖父母から贈与を受けた現金により作られた預金について、その子供が意思能力の無い幼児であるときには、子供名義の預金の存在を子供自身が知らず、親が子供名義の贈与税の申告を子供に代わってすることがあり得ます。この場合には親権者として子供を代理して法律行為を行ったことを明確にしておくとともに、子供が意思能力の認められる程度に成長した際には、子供の意思で使うことのできる預金があることを知らせてある点についても明確にしておいてください。

 民法550条では「書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りではない。」と規定しています。相続税法基本通達ではこの民法の規定をうけ、財産の取得時期を「贈与の場合、書面によるものについてはその契約の効力の発生した時、書面によらないものについてはその履行の時」とする取り扱いを公表しています(相基通1の3・1の4共-8)。 したがって、贈与契約書の無い贈与の場合にはその贈与の履行がいつ行われたのかという判断が重要になります。

 孫自身が支払いの手段として普段使用している普通預金の口座に振り込んだ場合には、その振り込んだ時を贈与の時期とすることに問題はありません。しかし、契約の意味も分からない幼児である孫名義の通帳を祖父が作ってその祖父が預かっているような場合、または契約の意味が分かるほど充分成長しているのだけども、孫がその通帳の存在を知らない場合等については、その贈与は未だ履行されていないものと考えられます。

 このように、未だ贈与が履行されていないと認められる預金については、その預金が実質的に孫の管理下に置かれたタイミングが贈与の履行の時期となりますので、そのまま相続が開始したような場合には全て相続財産になります。

2018年12月15日