簡便にすることと誤魔化すことは違う

日本の主要な国税は申告納税制度によっている。

申告納税制度とは納税者が自ら申告を行うことによって税額を確定させる制度だ。

この制度は納税者の良識に支えられている。

(仕事用とプライベートの区分)
ところで、かなり前のことなのだが、個人事業主が使っている携帯電話の利用料を全額経費に入れていても、税務署はそんな細かいことまで見ませんよねって相談されたことがある。

この人の心配事は、携帯電話は仕事でもプライベートでも使っているので、仕事で使う分だけを区分して経費にしないといけないのかという点だ。

所得税法は次のように規定している。

第四十五条 居住者が支出し又は納付する次に掲げるものの額は、その者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない。
一 家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの

さらに所得税法施行令は以下の通りだ。

第九十六条 法第四十五条第一項第一号(必要経費とされない家事関連費)に規定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。
一 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費
二 前号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であつたことが明らかにされる部分の金額に相当する経費

つまり、仕事用とプライベートは区分しなければ経費にできない。

(区分する方法)
 スマホの使用料を仕事用とプライベートに区分する方法を考えてみた

 前月分の請求明細を見ると
 ①機種代
 ②基本料金
 ③通話料
 ④データ通信料
 ⑤オプション料金
 ⑥割引
 とある。


(手順1.)請求金額の総額から①の機種代がある場合には、購入代金の分割払いだから、その金額はまず除外する。機種代は別途に計算しないといけないがここでは説明を省略。さらにオプション料金のうち仕事に関係ない機能のオプション代も除く。

(手順2.)③の通話料は、仕事に使ったのか、プライベートに使ったのかを考えてみる。
 私の場合、ほとんど電話の使用料は無いが、電話を使った覚えがあるのは、顧客先へ訪問する際に約束の時間に遅れそうになって連絡した時だけなので、100%経費

(手順3).④データ通信料をどう区分するのかだが、アイフォンの場合スクリーンタイムという機能があって、どのアプリをどれぐらいの時間使っていたかが分かる。これをみると、仕事の連絡や情報検索に利用した時間、音楽をダウンロードしたり、映画やドラマを閲覧した時間が分かる。これを参考にデータ通信料のうち、仕事用とプライベート用を区分する。

(手順4).③の通話料と④のデータ通信料のうち、仕事に使った金額の合計の③と④の総額に占める割合をだす。

(手順5).手順1で計算した金額に手順4の割合を乗じて計算した金額が経費に算入される金額になる。

(さて、ここからが本題)
 毎月、こんな手間をかけないといけないのかという点

どうせ、税務署が見ないのなら、全部を経費にしてもいいじゃないかといえるのか?

税務署は、全ての申告書の細かい部分までチェックはできない。そんな人材も財源もない。しかし抜き打ちで調査の対象になり、その場に臨場した調査官が先ほどの所得税法45条を根拠に経費を否認することはあり得る。

じゃあ、見つかったら損じゃないかという発想は間違いだということを言いたいのだ。

冒頭に書いたが、税金のシステムは人々の良識に支えられている。

見つかったら損じゃないかという発想では成り立たない。


(お月様が見ているよ)
 岐阜県の民話らしいのだが、

  昔、母親を亡くした男の子とその父親が暮らしていました。

  二人で町におつかいに行った帰り、
     夜遅くなってしまったのだが、

  道の脇の畑においしそうなかぼちゃが生っている。

  父親は「誰か見ていたらすぐに知らせろ」と
      男の子に言い残して畑に入ろうとした。

  男の子が言った。
  「お父さん、お月様が見ているよ」

  親子は何も盗まずに家路についた。

この話、私も日本昔話で見たことがあるように思うのだが、なぜ相手が税務署なら、見つかったら損だという発想が生まれるのだろう。

(簡便にすることと、誤魔化すことは違う
先ほどの携帯電話の使用料について、仕事用とプライベートを区分する面倒な方法で毎回区分するのは、その手間と金額の誤差の関係から考えて不合理ではないかということは確かにいえる。

だからといって、税務署が見ていないから全額経費にしていいわけではない。

毎月の支払金額にあまり変動が無く、誤差の範囲が少額であるならば、根拠となるデータを保存したうえで、そのデータに基づく合理的な按分率を算定する算式を適用して毎回の支払金額から経費になる部分を計算するなど、簡便な方法を工夫することも考えないといけない。


2019年03月02日