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『デフレの正体』
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2011年2月19日 18時17分
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『デフレの正体』(藻谷浩介・角川ONEテーマ21)を読みました。この本の「おわりに」のところで、将来の日本の姿が予言されています。決して暗い未来ではありません。
・「都市開発地域拡大・容積率上昇・土地神話」の崩壊。
・旧来の市街地、農山林集落の再生、中途半端な郊外開発地が田園や山林に戻る。
・個性のある都市景観の復活。
・安普請の高層建築物の中低層化、耐震性の高い高品質な建物への立替の促進。
・不動産取引の流動化。
・土地ではなく建物の生む収益による不動産評価。
・大量生産品市場が縮小し、手作りの地産地消産業の増加。
世間では政府による景気対策が急務と言われています。声高に叫ばれている景気対策とは、具体的にどのような将来をイメージしてのことなのでしょうか。工業製品がどんどん売れて生産が追いつかず、従業員は残業し、給料が上がり、ブランド物をどんどん買う。従って高級品がどんどん売れる・・・・というようなバブルの再来はもうありません。なぜなら、日本は近代化が完了してしまっているので、近代化のための爆発的な好景気の到来はもうありません。また、工業技術はすでに中国、インドなどのアジア諸国が共有しているので、日本のアドバンテージも、もうないからです。日本が目指すべき将来は、バブル時代ではなく、冒頭に書かれたような落ち着いた将来です。農業が再生し、アパレルや伝統工芸のような軽工業が再生する将来です。判りやすくいえばフランスやイタリアのイメージです。
■不景気の原因
リーマンショックによる世界的な不景気といわれています。もちろんある程度リーマンショックによる影響はあったものと考えられます。しかし、『デフレの正体』の著者、藻谷氏の分析は異なります。日本のデフレの正体は生産年齢人口の減少という構造的な問題なのです。
若者の消費離れではなく、若者そのものが減少しているので、若者が欲しがるものの消費が総体として低迷しているのです。消費が低迷するので、メーカーは値下げをする。値下げする為にコストを削減、生産年齢層である若者の所得が増えない。若者が消費できない。このような悪循環(デフレ)に陥っているのです。
一方非生産年齢層(高齢者)は増加しています。そして高齢者の中には富裕層があります。あまり消費しない高齢者のところに貯蓄が留まっているとのことです。
■中国は大市場
リーマンショックによる一時的な不景気なのではなく、日本では構造的に消費が小さくなっています。しかし、中国からの観光客は大金を消費するといわれています。中国の工業化がどんどん進み、日本産業にとって脅威であるとの危機感が煽られていますが、見方を変えると、中国の工業化が進み、中国国民の所得が増加すると、市場がどんどん膨らむともいえるのではないでしょうか。
もちろん、そのうち中国人は日本から物を買わなくなるのではないか、という漠然とした不安があります。ここで日本が考えないといけないのは、日本製品のブランド力です。日本が工業的に発展し、世界中で日本製品に勢いのある時期がありました。ヨーロッパの製品は売れなくなったでしょうか。日本人の所得が増えることによって、ヨーロッパのブランド力のある超高級製品が売れたのではなかったでしょうか。
私は日本が世界に誇れるものとして、その将来性が期待できる産業を考えてみました。
・温泉旅館や料亭のサービス(外国人のためには個室化は必要かもしれない)
・高級日本酒(高級ワインが売れるように)
・日本の米をはじめとする農作物
・陶磁器や漆器
・和装、和装小物、茶の湯のような伝統日本文化にかかわるアイテム、和建築デザイン
・上質な家具、建築、庭園、洋服、機械式時計等の修繕、リフォーム
など。
しかし、これらのブランド力をあげなければなりません。上質な日本映画によってブランド力を高めるのもいいかもしれません。なによりも、日本の製品やサービスを日本人が粋に、お洒落に使いこなしている姿を外国人に見せたいものです。
■とはいえ、内需も必要
23年度税制改正大綱によれば、相続税の課税ベースを広げ、その代わりに親族間の生前贈与にかかる課税を緩和しようとしています。また相続時精算課税制度の適用を孫に拡大しようとしています。すなわち高齢者が貯蓄を消費しないで持ったまま亡くなるくらいなら、生活資金を必要としている生産年齢世代である子や孫に生前に資金の贈与をしやすくしようとしているのです。
しかしまだまだ不十分かもしれません。高齢者が貯蓄を消費しないのは、政府の高齢者福祉政策が信用されていないからではないでしょうか。年金制度は明らかに破綻してことを前提に制度が再構築されないと、とても信用する気にはなれません。医療保険制度も制度設計を見直さずにここまできたため、医師が過労死する状況まできているとのことです。年金制度や医療保険制度は人口が自然増することを前提に制度設計されていますので、制度は当然見直さないといけないのです。
政府は安心の出来る高齢者福祉制度の再構築を急がなければなりません。但しその制度は、総ての国民に対し政府が保証をするような現在の制度を踏襲する必要はないと私は思います。富裕層は市場原理のもと民間企業での福祉を受けることを選択できる(公的福祉の枠外に居ることを選択できる)ようにすべきではないでしょうか。
一方民間企業もデフレ脱却に真剣に取り組まないといけません。団塊の世代が定年退職を迎えるので、その補充のために、子育てや生活の為の消費活動が活発な生産年齢層の雇用を増やす必要があります。女性の正規労働者も増やすべきです。女性の所得を増やすと消費が増えるというわけです。景気対策は政府の仕事であり、何をしてくれるのか待っているというのではなく、市場経済で活動する民間企業自身がこのような対策を考えないといけないのです。
自分の意見と異なる意見の本を一生懸命読んでも、あまり身につかないとう話を聞いたことがあります。自分が漠然と感じていたことを明確に言葉にしてくれる本があると、あっという間に読めてしまいます。『デフレの正体』はそんな本でした。
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